日本において、
『鍼師(はりし)』という国家資格を取得しようとすると、
“東洋医学” について一定の勉強をしなければなりません。
その理由は、国家試験において、その知識が問われるからです。
鍼師は、
鍼(はり)を身体の任意の場所に刺すことで、
身体に、状況に応じた反応を起こさせます。
では、それが東洋医学なのかというと、
そうとは限りません。
東洋医学として鍼を使うということは、
鍼を刺すポイント(いわゆるツボ)が、
『気(き)』と『経絡(けいらく)』という概念に基づいて定められていなければなりません。
(『気』は “生命エネルギー” 『経絡』は “気の通り道” として定義されています。
これらは、まぎれもなく国家資格者が修得する知識です。)
前提として、
筋肉という組織に鍼が刺されば、必ず、生理学的な反応が起こります。
それは東洋医学としての作用(ツボの効能)とは違います。
解剖生理学の観点から選定されたポイントに鍼を刺したとすれば、
それは元より東洋医学ではありません。
また、
『経絡上に存在する経穴(いわゆるツボ)』として、
世界標準的に定められているポイントに鍼を刺したとしても、
施術者にとって、『経絡』そして『気』の概念が、“机上の空論” であるなら、
結果的に、身体に何らかの変化を起こせたとしても、
本来の東洋医学の真価を発揮することはできないでしょう。
そこには、
東洋医学というものが置かれる立場の、
その現実があるように思います。
遠い昔、
宇宙観・自然観の根底に『気』の概念を見出し、
特殊能力とも言うべきレベルまで身体能力を高め、
人体をも宇宙に見立てることを可能として、
『気』を体得し、操作することを主眼とした学問が、
現代の “東洋医学” の元であることは変わりません。